カム交換(うんちくの巻)

カム交換について長編になってしまったので、うんちくの巻交換の巻パワーデータの巻に分けました。


カムシャフトの実物。単なる山が付いた棒


【カムシャフトとは】

カムシャフトは一見山の付いた単なる棒です。

左の図では真横から見たイメージで表現されており、シリンダーの吸気バルブと排気バルブの開閉を司ります。

カムシャフトは下のクランクとタイミングベルトを介して連結されており、ピストンの上下運動に連動して回転します。

カムシャフトにはいくつもの山が付いており、出っ張りの部分がバルブを押すことによって空気の通り道が開きます。


【作用角,リフト量】

カムシャフトの仕様は通常リフト量と作用角で表現されます。

リフト量とはカムを押す最大距離です。この数値が大きいほどバルブをガバッと大きく開けることになります。カムの形で言えば、山の部分の高さになります。「ハイカム」とはこの山が高いカムという意味です。

作用角はカムがバルブを押している時間、すなわちバルブが開いている時間を表します。
角度で表示されているのに時間を表すのは変な感じがするかも知れませんが、カムはクランクの回転と連動して回転しているため、「クランクがどれだけ回転している間バルブを押しているのか」を角度で表現しています。

カムを横から見た図で表すと、出っ張りが始まっている部分から終わっている部分迄の角度になります。実際にはカムが1回転する間にクランクは2回転するので、作用角は図中の角度の2倍で表現されます(一部半分で表現されている場合もあります)。


カムの性格を決定するパラメータ

数値が大きいほど長い時間バルブを開いていることになります。

実際はリフト量や作用角よりも山の形が問題なのですが、通常それは表現されていません。

どちらの数値も大きいほど高回転でのパワーがでますが、アイドリングが不安定になったり低中回転でのトルクが落ちる傾向があります。バラッバラッバラッっと怪しいアイドリング音をさせている車はカムを変えている可能性が高いです。

何でそうなるかっちゅうと難しいのですが、とりあえず高回転でパワーが上がる理由から。

パワーを上げるには、できるだけ多くのガソリンと空気の混合気をシリンダーに詰め込めばいいわけですが、その一つのやり方としては過給圧を上げること(ブーストアップ)によってギューギュー押し込むやり方と、バルブを長い時間ガバッと大きく開いておくことによって出来るだけ多く取り込むやり方があります。

カムは後者の考え方です。

通常4サイクルエンジンの吸気行程では、ピストンが下がる負圧で混合気を吸い込むワケですが、ピストンが下死点に達して上がり始めても空気の慣性でシリンダー内に流れ込んできます。高回転の時は空気もかなりのスピードで流れてますので、長い間バルブを開いていればそれだけ充填効率が高まります(当然限界はあるわけですが)。特にターボエンジンではブーストがかかっていますから、相乗効果でたくさんの空気を詰め込むことが出来ます。

低回転でダメな理由ですが、低回転ではブーストがそれほどかかっているわけではなく、空気が流れている速度も遅いです。シリンダーに詰め込むよりも吸い込むと形になります。あまり大きくバルブを開いていると、逆に流れのスピードが遅くなって吸い込みにくくなります。また長い時間開いていると、せっかくシリンダーに入った空気がまた逃げてしまうといった問題も出てきます。

例えが正しいかわかりませんが、圧力をかけて水を放水する場合はホースが太い方がいいのですが、ジュースを飲む時にストローとゴムホースではどちらが飲みやすいかってことです。

マフラー太くすると低回転でスカスカになるってのも同じ理屈らしいです。


作用角とリフト量に関してはこんな感じですが、エンジンの性格を最終的に決定するのはバルブタイミングってやつです。




バルブタイミングとは、カムによって決まる排気バルブと吸気バルブの開閉タイミングを左右にずらすこと

【バルブ・タイミング(バルタイ)】


ピストンがどの位置にある時からバルブを開き始めてどの時点で閉めるかを調整します。DOHCの場合は吸気側と排気側で2本カムがあるため、吸気バルブの開閉タイミングと排気バルブの開閉タイミングがあります。

シリンダーの吸気弁及び排気弁の開閉タイミングを変更します。ご存じ4サイクルエンジンは、吸気→圧縮→爆発→排気の行程があるわけですです。当然、吸気行程では吸気弁が開いてガソリンと空気の混合気をシリンダーに充填し、排気行程では排気弁が開いて爆発後の排ガスを排出します。

それぞれの弁(バルブ)をいつ開閉するかは、上下運動するピストンがどの位置にいるかで決まります。

ごく普通に考えると、例えば吸気行程の場合、ピストンが一番上に来た時点(上死点)でバルブを開き、一番下に来た時点(下死点)で閉じればいいように思えます。

ところが気体にも慣性があるため、実際には弁が開いても、すぐにはシリンダー内に混合気が入ってきません。

そこで一工夫があります。

排気行程から吸気行程に切り替わるところがポイントですが、ピストンが上死点に来る前に吸気弁を開き、上死点を過ぎてから排気弁を閉めるようにしてます。

すなわち、吸気弁,排気弁が両方開いている時間が存在し、オーバーラップと呼ばれています。

排ガスが排出される勢いを利用して、混合気を引っ張り込むことで、充填効率を高めているのです。

排ガスが抜けきったタイミングでピッタシ排気弁を閉じることができれば、充填効率は最大に高まります。


このタイミングを合わせればオッケーかと言うと、実はもっと問題が複雑だったりします。

エンジンの回転数によってピッタシのタイミングが異なるからです。

排気側を例に取ると、低回転の時にタイミングを合わせれば高回転ではタイミングが早すぎて排ガスが抜け切らず、充填効率が落ちてパワーダウンします。

逆に高回転に合わせると、今度は低回転で遅すぎてマフラーから生ガスがデロデロ〜っと出ていい匂いになります。当然、充填効率が下がるうえ、アイドリングが不安定になったりします。


一方吸気側ですが、作用角で話が出たように空気の慣性によってピストンが下死点から上昇に転じてもしばらくはシリンダーに流れ込んできますので、吸気バルブを閉めるのを遅らせてやればそれだけ充填効率が高まるのですが、空気の流れの速度が速い高回転側にタイミングを合わせると、低回転側では流れが遅いため折角充填された空気がまた吸気バルブより抜けていってしまいます。

このように、バルブタイミングはあっちが立てばこちらが立たずの関係なのです。

ノーマルではアイドリングの安定性と使用頻度が多い低中回転の性能を重視するため、最大パワーはある程度犠牲にして低中回転よりのバルブタイミングになっているか、中間をとっています。

なので、最大パワーを狙う場合は最大パワー重視のタイミングにすることにより、高回転での性能を改善します。

高回転でバルタイが合った時は、気持ちよく吹け上がると共にパワーも付いてくるようになります。「カムに乗る」という表現は、こういう状態を指します。

バルブタイミングを調整することによって、エンジンの性格を「下はモリモリ,上はフン詰まり」か「下はスカスカ,上はギュイーン」のように劇的に変化させます。

バルタイを自由に変えるには、スライド式のカムスプロケットを使用します。カムとピストンはタイミングベルトで連結され、連動して動くわけですが、タイミングベルトと一体になるプーリーの部分とカムが装着される部分をスライドさせることで、バルブの開閉タイミングを遅らせたり早めたりすることが可能です。

通勤の時は低回転重視、サーキット走行では高回転重視という感じで使い分けられるので、ライトチューンには打ってつけです。

ちなみに可変バルブタイミング機構を備えたエンジンは回転域によって動的にバルブタイミングを変更し、「下はモリモリ,上もギュイーン」を目指しています。トヨタのVVT-iはカムプーリーを回転域によって動的にスライドさせることによってタイミングだけを変えていますが、ホンダのV-TECは低回転用と高回転用のカムを用意して切り替えるようになっているため、タイミング,リフト量,作用角が全てが切り替わります。



スライド式カムスプロケット

中央の黒い板にカムが取り付けられ、歯車はタイミングベルトと咬み合わさる。5つのボルトをゆるめて歯車と板をスライドさせることでバルタイを調整する。
 
  

強化バルブスプリング
ノーマルよりバネレートが高く、高回転までバルブがカムに追従できるようにする。

【その他関連パーツ】

さて、ノーマルカムをハイカムに交換したとき、カムだけでなく別のパーツも交換してやる必要が出てくる場合があります。

上の説明で「カムがバルブを押す」と表現しましたが、高回転になるとそんなに生やさしいモノではなく、「女王様とお呼び!!ビシビシビシビシ!!」と激しくバルブをブッ叩いているわけです。バルブはカムに押されることで開き、バルブスプリングの力で閉まるわけですが、バルブスプリングの力が弱いとハイカムに変えて女王様のプレーが更に激しくなった時についていけず、哀れ体力の無い中年男(バルブ)はしこたま頭をピストンに打ちつけてあの世行きになります。

これを防ぐために強化バルブスプリングを入れます。

また、バルブの移動距離が大きくなるとスプリングがそれだけ縮むようになり、スプリングの隙間が無くなると線密着状態「いわゆる底突き状態」になるため、スプリングの巻き線を細くしてバルブのストローク量を稼ぐ目的もあります。


極端なハイカムにすると、それだけバルブの移動距離が大きくなり、それに従ってバルブの移動速度も速くなります。そうなるとカムを駆動するタイミングベルトにも負荷がかかるようになるため、タイベル切れが結構キモの4G63エンジンではタイミングベルトも強化しておいた方が安心できます。



【純正カムデータ】

吸気リフト量
(mm)
吸気作用角
(度)
排気リフト量
(mm)
排気作用角
(度)
SSG 8.5 252 8.5 252
エボI 8.5 252 8.5 252
HSG 9.5 252 9.5 252
エボII,III 9.5 252 9.5 252
ギャランVR4 9.5 252 9.5 252
ギャランAMG 10 260 9.5 264


上の表は4G63エンジンのノーマルカム一覧です。スミマセンが、旧型エンジンだけです。エボIV以降とSGX3のカムは流用不可です。

SSGとエボT,HSGとエボII,III,ギャランVR4はそれぞれ同じカムプロフィールです。HSGはSSGと比較してリフト量が増えており、パワーを重視した設計になっています。

エボの世界では一時ギャランAMG仕様のカムを流用するワザが流行りました。カムプロフィールを見ても、リフト量や作用角が大きくなっており、純正品としては最大限にパワーを重視したものです。ドラッグには物足りないものの、ストリート中心でもうちょっとパワーが欲しいという用途にはベストマッチと人気が高く、現在入手するのは困難なシロモノです。

社外品では旧型4G63用としてはHKS,東名パワード,JUNあたりからリリースされていますが、概ねリフト量が10.0mm〜11.5mm,作用角が260度〜272度となっています。

純正品ではアイドリングの不調といった不具合は出ないようにしていますが、社外品は思い切ってパワー偏重になっていますので、それなりに扱いにくさが出るのは覚悟しておいた方がいいようです。

交換の巻パワーデータの巻